中小企業BCP担当者様向け:一人で始めるBCP策定のロードマップと無料テンプレート活用法
中小企業BCP担当者様向け:一人で始めるBCP策定のロードマップと無料テンプレート活用法
中小企業の経営企画部などでBCP(事業継続計画)の策定をご担当されている皆様、特に「一人で何から手をつければ良いのか」「限られた時間や費用でどう進めるべきか」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
BCP策定は会社の未来を守る重要な取り組みですが、特に中小企業では専門知識を持つ担当者が少なく、兼任で担当されるケースも多いと伺います。しかし、ご安心ください。BCP策定は、決して一人で抱え込み、莫大な費用をかけなければできないものではありません。適切なロードマップと、無料で活用できるテンプレートやツールを賢く利用することで、一人でも着実に進めることが可能です。
この記事では、中小企業のBCP担当者様が一人でBCP策定を進めるための具体的なロードマップと、無料テンプレートの効果的な活用法について解説いたします。
BCP策定の第一歩:なぜ今、BCPが必要なのかを明確にする
BCP策定の最初のステップは、「なぜ自社にとってBCPが必要なのか」を明確にすることです。これは、単に国の推奨や取引先の要請に応えるためだけでなく、担当者ご自身がこのプロジェクトの意義を理解し、社内を巻き込むための重要な起点となります。
中小企業にとって想定されるリスクには、地震や台風といった自然災害だけでなく、火災、感染症のパンデミック、サプライチェーンの途絶、ITシステムの障害、主要な取引先の倒産など多岐にわたります。これらのリスクが発生した際に、事業をいかに継続・早期復旧させるかがBCPの目的です。
一人で進める場合、まずは経営層にBCPの必要性を簡潔に説明し、会社としてBCPに取り組むことへの理解を得ることが重要です。この際、自社の事業継続が困難になった場合に想定される具体的な影響(取引停止、信用失墜、従業員の安全確保など)を伝えることで、経営層の当事者意識を高めることができます。
一人で進めるBCP策定のロードマップ
次に、具体的な策定ステップを解説します。一人で担当する場合でも、以下の基本的な流れに沿って進めることで、効率的にBC定を進めることができます。
ステップ1:想定されるリスクと重要業務の特定
どのような事態が発生した場合に事業継続が危うくなるかを想定します。前述のような自然災害やシステム障害など、自社の事業にとって影響が大きいリスクをリストアップします。
次に、リスク発生時でも最低限継続・復旧させるべき重要な業務を特定します(事業影響度分析:BIAの簡易版)。「この業務が止まると、会社の存続に関わる」「お客様や取引先に特に大きな迷惑をかける」といった視点で、優先順位をつけてみてください。この際に、無料のBIAテンプレートを活用すると、情報を整理しやすくなります。
ステップ2:目標復旧時間(RTO)と目標復旧レベル(RPO)の設定
特定した重要業務について、どのくらいの時間(RTO:Recovery Time Objective)で復旧させたいか、そしてどの時点(RPO:Recovery Point Objective)までのデータや情報があれば業務を再開できるか、大まかな目標を設定します。完璧な目標である必要はありません。まずは現実的なラインを設定することが、後の対策検討に役立ちます。
ステップ3:対策の検討と決定
重要業務の継続・復旧に向けて、具体的にどのような対策が必要かを検討します。例えば、代替オフィスの確保、データのバックアップ方法、安否確認の方法、協力会社との連携などです。
一人で検討する際は、費用をかけない、あるいは最小限の費用で実施できる対策から優先的に考えます。既存のリソース(会社の設備、社員のスキルなど)を最大限に活用する方法を検討することが、中小企業においては現実的です。
ステップ4:BCP文書の作成
ステップ1~3で検討した内容を文書としてまとめます。これがBCP本体となります。無料のBCPテンプレートは、この文書作成の骨子として非常に役立ちます。テンプレートの項目に従って、自社の状況に合わせて内容を埋めていくことで、漏れなく、かつ効率的に文書を作成できます。
文書には、以下の内容を盛り込むのが一般的です。
- BCPの目的
- 想定リスク
- 重要業務と目標復旧時間・レベル
- 発災時の初動対応(安否確認、状況把握など)
- 重要業務の継続・復旧手順
- 代替手段(オフィス、設備、人員など)
- 緊急連絡網
- 体制(責任者、各担当者など)
ステップ5:社内周知と訓練・見直し
作成したBCPを関係者に周知し、内容を理解してもらうことが非常に重要です。一人で担当している場合、全社員を対象とした説明会が難しいこともあります。その場合は、部署ごとに時間を区切って説明したり、BCPの要点をまとめた簡易版を配布したりといった工夫が有効です。
また、BCPは策定して終わりではありません。実際に機能するかどうか、定期的に訓練を行い、必要に応じて内容を見直すことが大切です。一人で実施できる簡単な訓練としては、緊急連絡網を使った安否確認訓練や、特定のシナリオ(例:オフィスが使用不能になった場合)に基づいて、重要業務の担当者がどのように行動するかを話し合う机上訓練などがあります。
無料テンプレート・ツールの効果的な活用法
BCP策定サイトが提供する無料テンプレートは、特に一人で、かつ費用をかけずにBCP策定を進める上で強力な味方となります。
- BIAテンプレート: どの業務が重要か、停止した場合の影響はどのくらいか、復旧まで許容できる時間は、といった情報を整理するのに役立ちます。
- BCP計画文書テンプレート: BCP全体の構成を示しており、必要事項を埋めていくだけで基本的なBCP文書を作成できます。目次や項目立てに悩む必要がなくなります。
- 安否確認リストテンプレート: 緊急時の従業員の安否確認に必要な情報を整理できます。
- 緊急連絡網テンプレート: 関係者間の連絡体制を明確にするのに役立ちます。
これらのテンプレートは、WordやExcel形式で提供されていることが多く、自社の状況に合わせて自由に加筆・修正が可能です。ゼロからすべてを作成する手間を省き、策定作業を効率化できます。
また、インターネット上には、BCPの理解度を測るチェックリストや、リスク評価ツールなど、無料で利用できるツールも存在します。これらを活用することで、より客観的に自社の状況を把握したり、BCPの改善点を見つけたりすることができます。
ただし、テンプレートはあくまでひな形です。自社の事業内容、組織体制、利用可能なリソースなどを踏まえ、内容をカスタマイズすることが不可欠です。
費用を抑えるための工夫
中小企業が費用をかけずにBCP策定を進めるためには、外部コンサルタントに依頼せず、自社内のリソースを最大限に活用することが基本です。
- 情報収集: 中小企業庁や各自治体、業界団体のウェブサイトには、中小企業向けのBCP策定ガイドラインや無料テンプレートが公開されています。これらの公的な情報を活用することで、信頼性の高い情報を費用をかけずに得られます。
- 既存設備の活用: 新たな設備投資を行うのではなく、現在利用しているオフィス設備、ITシステム、通信手段などを、リスク発生時にどう代替手段として活用できるかを検討します。
- 従業員の協力: 一人担当者であっても、社内の各部署のキーパーソンに協力を仰ぐことで、部署ごとの重要業務の洗い出しや、具体的な対策検討がスムーズに進みます。BCPの目的を丁寧に説明し、協力体制を築くことが重要です。
まとめ:まずは「最初の一歩」を踏み出す
中小企業のBCP策定担当者が一人で取り組む場合、その道のりは決して容易ではないかもしれません。しかし、BCP策定の目的を明確にし、ご紹介したロードマップに沿って一歩ずつ進めること、そして無料テンプレートやツールを上手に活用することで、着実に形にすることができます。
完璧なBCPを最初から目指す必要はありません。まずは自社のリスクを把握し、最低限継続・復旧させるべき業務を特定し、そのための基本的な対策を検討・文書化することから始めてみてください。無料テンプレートは、その「最初の一歩」を踏み出すための強力なサポートとなります。
この記事が、中小企業のBCP担当者様にとって、BCP策定に向けた不安を軽減し、前向きに取り組むための一助となれば幸いです。